まえがき
ナイロビで自炊生活をしたとき、食材を求めに市場へ出かけて驚いた。ダイコンがあるのだ。そのほかにも日本で見たような野菜がたくさんある。いや、正確に 言うと日本で見る野菜ばかりだ。見たこともない野菜やくだものを期待していたのに、ちょっと拍子抜けした。と同時に、遠く離れて人種や文化も違う日本とケ ニアが、似たような食材を通して身近に感じたことも確かだった。
よく見れば、ホテルの中庭では、これまた日本と同じようにカラスがゴミをあさっていた。ダイコンといいカラスといい、まるで日本と変わらないじゃないか と眺めていると、そのカラスがちょっと違うのに気づいた。胸と首の後が白い、白黒カラスである。それがカーカーと鳴いているのだ。不思議な感じだ。日本に 帰ってから調べてみたいと思った。
白黒カラスはムナジロガラスという、もちろん日本にはいないカラスだった。やはり日本とケニアはなにげなく違うのだ。と納得していたら、ダイコンもだった。
日本のダイコンとケニアのダイコンはグループが違う。西アジアをスタートしたダイコンの仲間は、長い時間の果てに、日本、中国、ヨーロッパと大きく三つ の仲間にわかれた。ナイロビのダイコンはヨーロッパ系のからしダイコンの流れをくみ、日本の太くて大きなダイコンとは別物だった。ダイコンよお前もか、と いう感じである。
地球は一家、人類は皆兄弟というが、どうやら人類以外の生きものはそれほど単純な家族構成にはなっていないようである。やはり世界は広い。人間のように、さまざまな地域に適応できる生物のほうが圧倒的に少ないのだ。
それならばひとつ、身近な生きものたちをかたっぱしから調査してみよう。「身近な生きもの海外調査探険報告」である。
それによると、トマトはわずか150年前までは有毒植物といわれ、北欧で食べる者はだれもいなかったという。ほほう。
世界一の紅茶生産国であるインドの国民的飲料「チャイ」には、たかだか100年ほどの歴史しかない。へえー知らなかった。
ナメクジは殻の退化したカタツムリで、もともと貝の仲間である。なんとまあ。
なんだか、身近な生きものの近辺も意外なほどおもしろい。ここはひとつ、ずるずる調査を続けてみるべきではないだろうか。
街角や道端で、市場や動物園で、ホテルや食堂、バスや列車の窓から……。こうして、冒険でも自慢でもなんでもないただの観光旅行のあいだ、だれもが普通 に見ることのできる100の生きものを観察した。路上観察だから珍しいものはあまりないのだが、一見ありふれたものこそ油断禁物である。虫眼鏡でのぞくよ うに、ひとつひとつに焦点を合わせてみると、それらにはみな興味深い話が隠されていたのだ。
まずはあなたもアジア・アフリカの路上に立って、じっくりとまわりを見渡してほしい。ネコがいる。イヌが寝ている。木陰にサルが繋がれている。木の上には、なにやら果物がぶらさがっている。ジュース売りがいる。屋台も出ている。野菜の露店もある。
それでは、調査開始だ。最初はどこからにしよう。
この本ならどこからでもどうぞ。
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